プラスチックの衛生性

TOP > プラスチックの世界 > プラスチックの衛生性(安全とはどんなことでしょうか?)

安全とはどんなことでしょうか?

1970年代の石油化学の発展に伴い、石油化学製品としてのプラスチックが普及し、食品用容器包装・器具に日常的に且つ大量に使われるようになりました。当時、プラスチックから食品に健康を損なうような物質が溶出しているのではないかということで、安全性についての検討が国の内外で行われました。その頃は、本格的な商業生産が始まってから十数年しか経っておらず、プラスチックが食品用途に大量に使われはじめた事情を考えれば、その安全性に関心が集まるのは当然のことでしょう。

最近では、プラスチック製容器包装に起因する事故例がないという、これまでの実績から心配する人も少なくなりましたが、それでも何か一抹の不安をお持ちの方もおられると思います。そこで、ここではプラスチックの安全性について取り上げます。

天然物は安全と言える?

天然物は無害で、合成化学物質は有害というように、両者を考えておられる方も多いかと思います。これは、天然物は親しみやすい慣用名で呼ばれ、合成化学物質はむずかしい化学名で呼ばれることによることがその理由のひとつだと思われますが、天然物もれっきとした化学名を持つ化学物質で、本質的には合成化学物質と変りありません。

また、毒性あるいは有害性の有無に関しても、天然物も合成物も何ら変りはありません。

すべての物質に毒性や有害性の懸念があるということを理解していただくために、いくつかの身近な具体例をあげました。

食塩

食塩は、過剰に摂取すれば体重の減少や、発育を阻害したり、ひいては死にいたることが知られています。

つまり、食塩にも毒性があることになります。学者の中には、食塩より危険な食品添加物はないという方もいるほどです。ちなみに食塩のLD50は、文献によると、ねずみでは3,000~4,000mg/kg-体重とされています。

※LD50:その動物の50%が死にいたる摂取量

ビタミン類

ビタミン類は健康維持には不可欠ですが、正式名称を表に示しました。表のように、当然のことながらCAS No.(CAS登録番号)もついており、化学物質です。

ビタミンA、C、D、Eなどは、健康食品等による過剰摂取で肝機能、疲労感、嘔吐などの健康障害をひき起こす可能性があることが動物実験や人間での症例で明らかになっています。もちろん食品からの通常の摂取量では問題はありません。まさに、「過ぎたるは及ばざるがごとし」ということです。

慣用名 一般名 CAS No 化学式
ビタミン レチノール 68-28-8 2,6,6-トリメチル-1-(9’-ヒドロキシ-3’,7’-ジメチルノナ-1’,3’,5’,7’-テトラエンイル)-シクロヘキシ-1-エン
ビタミンB1 チアミン 59-43-8 3-(4-アミノ-2-メチルピリミジン-5-イルメチル)-5-(2-ヒドロキシエチル)-4-メチルチアゾリウム
ビタミンB2 リポフラビン 83-88-5 7,8’-ジメチル-10-(1’-D-リピチル)イソアロキシジン
ビタミンC アスコルビン酸 50-81-7 2,3-ジデヒドロ-L-スレオ-ヘキソノ-1,4-ラクトン
ビタミンD カルシフェロール 50-14-6 9,10-セコエルグスタ-5,7,10(19),22-テトラエン-3β-オール
ビタミンE α-トコフェロール 59-02-9 2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリドデシル)クロマン-6-オール

青酸

猛毒の代名詞になっている青酸は、インゲン豆やある時期の青梅に糖と結合した形(青酸配糖体)で含まれています。青酸配糖体の含有量は、インゲン豆では50ppm程度ですが、青梅の核種中では3%以上も含まれています。青酸配糖体は、青梅の果肉中に含まれる酵素により分解されて青酸を生成する可能性があります。

したがって、インゲン豆を普通の食事量程度食べても障害は起きませんが、青梅のほうは命にかかわることもあるわけです。このように毒性が強い青酸もインゲン豆に含まれている量では安全ですが、青梅に含まれている量だと危険となるわけです。

このほかにも、ジャガイモの皮や芽に含まれる猛毒のソラニン、お茶やコーヒーに含まれて多量の摂取や常用習慣で障害をひき起こすカフェイン、人類が慣習的に常用してきたたばこに含まれ依存症を起こすニコチン、一部の民族が長年慣習的に飲用してきたコカに含まれる麻酔性のあるコカイン、ホウレン草には体内で発がん性のあるニトロソアミンに変る可能性のある硝酸塩類など、天然物にも人体や精神に有害な物質が含まれていることが、よく知られています。また、フグの毒として有名なテトロドトキシンは化学構造が解明されて合成も可能な物質です。

ここに述べたように、食塩やビタミン類など多くの天然物にも毒性があることは理解されたことと思いますが、健康人がごく普通の食生活をしている場合には、食塩やビタミン類で障害がひき起こされることはありません。でも注意を要するのは、長年問題なく利用しているという事実のみで、その物質の安全性が担保されているわけではないということです。

勿論、人類が長い間、慣習的に利用してきたことが、ある物質や技術の安全性を一定のレベルで担保するとの考えは必ずしも誤りとはいえませんが、このことのみで「合成された化学物質や開発された技術は危険である」と考えることは、科学的な考え方とはいえません。


「環境に良さそう。身体に良さそう。」などという主観的、情緒的な判断ではなく、科学的な根拠に基づく客観的な判断が大切ではないでしょうか?

すべての物質は有害になり得る

新聞やテレビなどで、「安全な物質だけを使う」とか、「有害な物質は使うな」などといった意見を耳にすることがあります。これらの考え方の背景には、次のような考え方があるように思えます。

ある物質が安全とか危険ということは、その物質の摂取量や使い方による相対的なことを示す言葉といえます。

この根底には、「原則として全ての物質は有害・有毒である。」との考え方があり、「その物質の安全・危険は、使用方法を管理することにより導き出される相対的な指標であり、絶対的なものではない。」との考え方があります。

毒性は、その物質をどのくらい摂取したら障害が現われるかという量で示されます。前項で示しましたように、天然物、合成物を問わずどんな物質でも摂取する量を増やしていけば、必ずどこかで何らかの障害が現われますから、どんな物質でも毒性があることになります。

しかし、毒性のある物質でも摂取量が少なければ、体内で分解されたり、排出されたりして、障害をひき起こすには至りません。 これが安全ということであり、いわゆる安全性評価の考え方の基本です。

科学技術が進歩した今日、私たちは様々な技術の恩恵に浴しているのも事実です。安全性評価においては、最新の知見をもとに最新の技術手法を用いて、そのものの有用性や、摂取量、毒性等を適切に評価・判断して、適切に管理していくこと(安全に使いこなしていくこと)が大切です。

これまでの説明で、「化学物質の安全性とは?」という考え方がご理解いただけたでしょうか?

平成15年に施行された食品安全基本法では、まさにこのことを評価検討する場として食品安全委員会が設置されました。基本法では、食品安全委員会でリスク評価(健康影響評価)を行い、評価結果に基づく食品衛生法及び関連法規(規格基準)によるリスク管理を行うことが、明記されています。

リスク評価

最近、ハザードとか、リスクとか言う言葉をよく耳にします。これについて少し説明します。


<リスク評価とハザード評価>

化学物質の人の健康への影響を考える時、従来はそれらの持つ毒性や有害性のみで議論されることが多かったのです(ハザード評価)。

しかし、「すべての物質は有害になり得る」の項で述べたように、最近ではそれらの使い方や管理の方法を検討した上で、現実にそれらの持つ毒性や有害性の発生する可能性や確率をより小さくすることが議論されるようになってきました(リスク評価)。

ハザード評価では、危険がゼロになることが目的ですが、科学の世界ではありえない事であり、不毛な議論に陥ることから最近の安全性評価では適用されません。一方、リスク評価では、全ての物質が固有なものとして持っている危険要因をハザードといい、この危険要因が、現実に人の健康に影響する可能性の程度をリスクと言います。最終的には、このリスクが許容できる範囲内に抑えられることが安全だと判断しています。

安全を確認する方法

化学物質の安全性に関する皆さんのお考えが、少し変わったのではないかと思いますが、それでも、「石油を原料にしているプラスチックからは、有毒物が大量に食品中に入ってくるのではないか?」との疑問や不安をもたれる方がおられると思います。 そこで、少し専門的になりますが、どのようにして安全かどうかを評価するのかということをご説明します。ここでは、食品用の容器包装を考えるときに最も普通に行なわれるリスク評価、すなわち、経口摂取を前提とした評価を主体にご説明します。

許容摂取量の推定

下図に化学物質を動物に経口投与した場合の一例を示しました。動物にとって、一定期間(90日間が一般的)にわたって毎日一定量の化学物質を摂取していくと、一般的に多くの化学物質は、微量の摂取では全く健康影響を受けませんが、摂取量が増加すると生理機能の変化を来たし、さらに増加すると障害(中毒)をひき起こし、ついには死に至ることが知られています。

<毒性の現れ方>

参考:厚生労働省webサイト、社団法人環境情報科学センターwebサイト

ある量以下では、生理機能の変化や障害は現れません。この量を最大無作用量といいます。つまり、摂取量が最大無作用量以下であれば、生理機能の変化や障害(中毒)は起きません。

それでは、具体的に最大無作用量はどのような方法で決定するのでしょうか?

人体実験をやるわけにはいきませんから、ネズミのような実験動物を用いた毒性試験により決定します。より詳細な動物試験の方法については、動物種、動物数、投与期間、投与レベル、投与方法、観察項目(臨床、病理)など、一般的に、OECDガイドラインに示されている方法で実施します。この試験は、通常3水準以上の投与レベルで実施しますが、その中で全く影響が観察されなかった最大投与レベルを以って最大無作用量とし、通常(mg/日・kg-体重)で表示します。(図のA点)

こうして求めた最大無作用量は、あくまで動物についてのものであって、人間にそのままあてはめることは少し乱暴です。人間の方が動物より感受性が高いこと(種差)もあるでしょうし、同じ人間でも健康人と病人とでは抵抗力が異なる(個体差)でしょう。

これらを考慮して、一般に、動物実験により求めた最大無作用量を安全係数<100~1,000>で割ってヒトの許容摂取量(図のB点) とするのが、一般的です。

図に示したような実験動物に一定期間にわたって一定量の化学物質を摂取させる試験(亜急性毒性試験=亜慢性毒性試験ともいう)の他に、少量ずつを実験動物の全生涯にわたって投与する慢性毒性試験があります。これらの試験から求めた許容摂取量を一般にADI(Acceptable Daily Intake:1日許容摂取量)、またはTDI(Tolerable Daily Intake:1日耐容摂取量)と呼んでいます。

なお、この他に亜急性毒性試験や慢性毒性試験の予備的試験として、1度だけ化学物質を大量に投与する急性毒性試験(LD50:毒性の大小の目安として使われる量)もあります。

摂取量の推定

摂取量が許容摂取量を上回らないことが、障害は勿論のこと、生理機能の変化もひき起こされないことから、実際上、安全であるとい えるわけですが、推定摂取量はどのように決めるのでしょうか?

ある物質Aをプラスチック製の容器包装(の一部)として使用するケース、例えば、その物質Aをポリエチレンに添加する場合を考えます。食品の製造から消費までの期間に、添加したその物質Aはポリエチレンから食品中に僅かに溶け出します。結果として汚染した食品を介してヒトがその物質Aを摂取するものと考えます(※1)。

この溶出量を具体的に測定する方法として、予めこの物質Aを必要量添加したポリエチレンを準備します。このポリエチレンを包装する食品の代替物質としての4種類の擬似溶媒に浸漬します。浸漬条件は、高温での食品を充填する条件、および室温での長期保存条件 (加温して加速試験)を模擬的に再現して溶出させる方法がとられます。

このようにして得られた各擬似溶媒への溶出量の最大値をその物質の溶出量とします(※2)。この溶出量にヒトの平均体重、1日当 りの食品摂取量を考慮して、体重1kg当り1日推定摂取量(mg/日・kg-体重)を求めます(※3)。このようにして得られたその 物質Aの推定摂取量をEDI(Estimated Daily Intake:1日推定摂取量)といい、先の毒性試験結果より得られた許容摂取量を上回らないことがもとめられます。また、暴露量をより使用実態に近づけるため、※2、※3に示す分配係数や消費係数を考慮するFDAの考え方の導入も検討されています。

天然物と合成化学物質の差別が、いくらか解消したでしょうか。けれども、次のような反論が出るかもしれません。

「食塩などについては障害が起きないように摂取する量を自分でコントロールできる。しかし、プラスチックの場合、摂取量が消費者には分からないし、自分で摂取量をコントロールすることもできない。」

当然な疑問です。プラスチック製品の安全性は、どのようにして保証されているのか、あるいはどこまで保証されているのか、次にご説明しましょう。

Nextプラスチックの安全性 >